供述

ずいぶん前からこの街ではホンモノ探しが始まっている
本物だけが発言権を持ち
本物だけがぐっすり眠れる
知らない街へ出かけるとその事がよく分かる
激安モーニングのにおいが染みついたホテルの喫茶店からは
権力者の探しているものがよく分かる
 
ホンモノかどうかは人類にとって重要だ
みんながホンモノを探している
そうすれば自分がいかに偽りか感じられるからだと思う
だから家から外へ出るとき誰もが鏡から視線をそらす
私も毎朝家を出るが職場には私の顔はない
たまに恋人と口論になると「まぁまぁ感情的にナラナイデ」と言われる
 
私の中にはホンモノはない
食べる物にはさほど困っていないが
いつも肝心なところで誰にも注目されない
それはおそらく私がホンモノでないからで
本心でこの人生を生きていないからだ
 
誰が決めたか知らないがこの街はこうだ
人、犬、車、米、なんだってあべこべに成型させられ
おのおのが各々のやり方で虚偽を裁く
私がいくら熟睡できたとしてもこの夢はフェイクなのだ
 
機械のような恋人に「ゴメンネ」と答えてから私は家へ帰った
赤ワインはボトル490円だった
もうこんな街にはいられないので今日は眠りたかった
ついでに死んでやろうと思ってカッターを握った
せっかくだからとスマホを開いた
「アラサー 自傷行為 痛い」とか検索している時点で
私はホンモノ探しに投獄されている