それもetude

頸動脈を狙って撃ち込まれた向日葵の熱量をまともに受けて
血しぶきを放ちながら夏が終わっていく
 
matinee
 
「あれ、あの時いなかったっけ?」と言われる人は人気者で
みんなで行った海の思い出に私はいない
 
豆知識
 
出席者名簿の最初の5人に名前を書かれた人は将来有望
私は電話口で「今どこにいるの」と聞かれ、2つ次の駅名を答えてしまう
 
yes、and、yes、and、で成り立たせる
人生は即興劇だ
居心地の悪い世界にロードされても
ベルが鳴るまでやり続ける
子ども部屋の地球儀の速度で
   
鼻を啜っても目を擦っても頭を掻いても気が済まない
もぞもぞとした焦燥感を植え付けながら今年も冬が幕を開ける
 
soiree

供述

ずいぶん前からこの街ではホンモノ探しが始まっている
本物だけが発言権を持ち
本物だけがぐっすり眠れる
知らない街へ出かけるとその事がよく分かる
激安モーニングのにおいが染みついたホテルの喫茶店からは
権力者の探しているものがよく分かる
 
ホンモノかどうかは人類にとって重要だ
みんながホンモノを探している
そうすれば自分がいかに偽りか感じられるからだと思う
だから家から外へ出るとき誰もが鏡から視線をそらす
私も毎朝家を出るが職場には私の顔はない
たまに恋人と口論になると「まぁまぁ感情的にナラナイデ」と言われる
 
私の中にはホンモノはない
食べる物にはさほど困っていないが
いつも肝心なところで誰にも注目されない
それはおそらく私がホンモノでないからで
本心でこの人生を生きていないからだ
 
誰が決めたか知らないがこの街はこうだ
人、犬、車、米、なんだってあべこべに成型させられ
おのおのが各々のやり方で虚偽を裁く
私がいくら熟睡できたとしてもこの夢はフェイクなのだ
 
機械のような恋人に「ゴメンネ」と答えてから私は家へ帰った
赤ワインはボトル490円だった
もうこんな街にはいられないので今日は眠りたかった
ついでに死んでやろうと思ってカッターを握った
せっかくだからとスマホを開いた
「アラサー 自傷行為 痛い」とか検索している時点で
私はホンモノ探しに投獄されている